さつま芋
芋を掘った。なかなかの出来。
昭和22年の出生前、母の腹が大きくふくらんだ初秋。
父が山陰線の列車をねぐらにしていた岡山空襲の戦災孤児を連れ帰ったという。10歳の男の子。
ひと月が経ったある日、祖母が新しい下駄をはかせ、50銭玉を小遣いに持たせて実家の秋祭りに連れていったところ、それきり姿を消してしまったとか。
わずか8歳で身寄りを失って2年、どんな闇を抱えて生きてきたのか。光が届くはずもない。
芋混じりの飯をまずそうに食べていたと母。
生きていればもうそんな年になるかとつぶやいていた父。
芋を食べるとふと思い出す。
名前も聞いていたはずだが、忘れてしまった。改めて尋ねる術はもはやない。