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お滝さん

 この冬は暖かい日が多く、今のところ雪も例年に比べて極めて少ない。

立春を控えて梅は既に咲き、沈丁花の芳香が漂うのもすぐの間。紫陽花の芽はまだ固いようではあるが。

 少し前、牧野富太郎博士の偉業をテレビで放送していた。植物の研究に没頭する博士と彼を支える妻、寿衛(すえ)さんとの生活をドラマ仕立てにしたもの、結構面白かった。

 博士が1940年に刊行した「日本植物図鑑」には3000種が記載され、自ら名付けたものも2500種にも及ぶという。今でも改定され販売され続けているというから驚きである。

この中には東北で発見したササの一種に「スエコザサ」というものがある。苦労をかけた妻にささげたものであろう、微笑ましい話である。

 ところがあのシーボルトについては、アジサイの学名に彼の日本人妻、お滝さんの名を取って「ハイドランジア・オタクサ」と名付けたと怒り、嫌っていたという。

 理由は彼女の出自が長崎丸山の遊女であったとのことようである。さらには、外国人であるシーボルトが江戸時代には既に「日本植物誌」を著していたことに対する強烈な対抗心が潜んでいたのかもしれない。

 男女の関係は洋の東西変わりなく、目くじら立てることもないと思うのだが。

 大学者もそちらの面では案外狭量なただの人であったのか、意外な一面を見たような気がする。

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