大湿地帯
夜、周りの田んぼからにぎやかなカエルの鳴声が聞こえてくる。田植えが始まった。
日本の平野部は大昔、アシの群生する湿地だったという。古事記や日本書紀には、日本の別名として豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)や秋津州(あきつしま)が記されている。
アシが生い茂り、アカトンボの大群が舞う、これが日本の原風景だったのであろう。
稲作のためアシ原を田んぼに作り替えたのだが、湿地であることに変わりはない。田植えは日本が大湿地帯であることを改めて思い起こさせる。
田んぼには多くの生命が躍動する豊かな生態系が成り立っていたが、今にその面影はない。
コイやフナ、ナマズなど多くの魚類の産卵は、コンクリートのかんがい設備に阻まれ、イナゴやアカトンボは次々と開発される新農薬によってほとんど姿を消した。
カエルの鳴き声もいつの間にか聞こえなくなった、そんな日が来るような気がしてならない。