鹿の恋
秋も深まり、大根や白菜など冬野菜作りに忙しい。
ひと汗かいて腰を下ろし、脇の藪に目をやるとススキの根元に懐かしいナンバンギセルの花が咲いていた。
道の辺の尾花が下の思ひ草今さらさらに何をか思はむ (万葉集 詠み人知らず)
子供のころは、口に咥えてタバコだーと、ふざけていたなー、そもそも休憩をタバコにする、と言っていたなーと、思い出に浸る。
さて作業再開と立ち上がると、近くの山から「ピー」なのか「ミー」なのか鋭い鳴き声が。繁殖期を迎えて、メスを呼ぶオスジカの鳴き声だ。えっ、こんなところでと驚く。
今は亡き大正14年生まれの母が幼い頃、村から見上げた山の尾根を連なって歩いていたのが珍しかったと話していた。
若桜町の山中で拾った鹿の頭
県東部の奥地では、生態系を破壊するほどシカの食害がひどいが、いよいよわが町にも現れたのか、ここ100年来の異常事態と見るのは大げさか。
万葉集にはシカの鳴き声を「鹿の恋」と詠んだものが多いが、今は、そんな悠長なことは言っていられないかもしれない。